「厄年だから気をつけなさい」──そう言われて、漠然とした不安を覚えた経験はないだろうか。

私は参拝歴30年、500社以上を踏破してきたが、厄年について神職から直接話を伺う機会は数えきれない。そこで繰り返し聞いたのは「厄年は本来、晴れの年齢だった」という言葉だ。一次資料を確認していくと、現代の「厄年=不吉な年」というイメージは、歴史のどこかで変質したものだとわかる。

「厄」ではなく「役」──民俗学が示すもう一つの起源

厄年の起源には大きく二つの流れがある。一つは中国の陰陽五行思想に由来するもの。江戸時代中期に編纂された百科事典『和漢三才図会』(寺島良安著・1712年頃)には、厄年は中国古典『素問』の「大忌」に基づき、9年周期で巡るとの記述がある。

もう一つは、民俗学から提唱されている「役年(やくどし)」説だ。村落共同体において一定の年齢に達した者が、身を清めて行動を慎み、神社の祭祀や運営を担う「役」を引き受ける──つまり地域社会で責任ある立場に就く通過儀礼の年だったとされる。

地理的にここは重要な分岐点で、陰陽道の「厄」の思想と土着の「役」の文化が融合し、現在の厄年の体系が形づくられたと考えられている。由緒書によると、宮座(みやざ)への加入資格として厄年の年齢が設定されていた神社も確認できる。

神社本庁が語る厄年の「本来の姿」

神社本庁の公式サイトには、厄年について注目すべき記述がある。

「本来、厄年は長寿を祝う還暦(61歳)や古稀(70歳)などの年祝いと同じく、晴れの年齢と考えられていました。厄年を迎えることは、地域社会において一定の地位となることを意味し、(中略)神事に多く関わるようになります」

つまり厄年とは、共同体の中で信頼を得て神事を担う「ハレの年」だった。「災厄」の一面だけで語るのは、本来の意味からすると片手落ちだといえる。

2026年(令和8年)の厄年一覧──数え年で判定する理由

厄年は数え年で判定する。生まれた年を1歳とし、元日に1歳加算する数え方だ。これは、かつて日本で広く使われた年齢計算法であり、神社の祭祀や暦と深く結びついている。

男性の本厄

  • 25歳(2002年/平成14年生まれ)
  • 42歳(1985年/昭和60年生まれ)──大厄
  • 61歳(1966年/昭和41年生まれ)

女性の本厄

  • 19歳(2008年/平成20年生まれ)
  • 33歳(1994年/平成6年生まれ)──大厄
  • 37歳(1990年/平成2年生まれ)

前年が前厄(厄入り)、翌年が後厄(厄晴れ)にあたり、合わせて3年間が厄年の期間とされる。ただし神社本庁は「いつまでに厄祓いをしなければならないという決まりはない」と明記しており、過度に焦る必要はない。

前厄・本厄・後厄──それぞれの過ごし方

私は毎朝5時に起きて近所の神社に参拝する習慣を30年続けているが、厄年を迎えた年も特別なことをしたわけではない。日々の参拝を丁寧に続けること自体が、厄年の過ごし方として理にかなっていると感じている。

前厄──心身の変化に気づく年

前厄は「厄入り」とも呼ばれ、本厄に向けて心身に変化の兆しが現れる時期とされる。体調管理を意識し、生活リズムを整えることが基本だ。この時期に厄祓いを受ける方も多い。

本厄──慎みつつ、役目を引き受ける年

本厄は最も注意が必要とされる年だが、「やってはいけないこと」を過度に気にするより、古来の「役年」の精神に立ち返ってみてはどうだろう。地域の行事に参加する、神社の氏子活動に関わる──そうした「役」を引き受けることが、本来の厄年の過ごし方に近い。

後厄──感謝を届ける年

後厄は「厄晴れ」と呼ばれ、厄が薄れていく年。とはいえ油断は禁物で、引き続き慎重に過ごしたい。厄祓いを受けた神社へのお礼参りも、この時期に行うとよいだろう。

厄祓いの手順と心得

厄祓い(厄除け)は神社で受ける祈祷の一つだ。手順は以下の通り。

  1. 神社の社務所で申し込み、初穂料を納める(一般的に5,000〜10,000円程度)
  2. 拝殿に上がり、神職による祝詞奏上を受ける
  3. お祓いを受け、お札やお守りをいただく

20代の駆け出しライター時代、ある神社で祈祷を受ける際に初穂料の封筒の表書きを間違えたことがある。恥ずかしくて顔が火照ったが、神職から「大事なのは形式より、神さまに感謝を届けようとするお気持ちです」と言われた。以来、マナーの準備は怠らないが、形式に縛られすぎないことも大切だと心がけている。

よくある質問(FAQ)

Q1. 厄年に引っ越しや転職をしてもよいのですか?

神社本庁や主要な神社の公式見解で、厄年に特定の行動を禁じる教義的根拠は確認できない。人生の転機と厄年が重なることはむしろ自然なことであり、必要な決断まで先延ばしにする根拠はないといえる。

Q2. 厄除けと厄祓いは同じものですか?

厳密には、神社で行うのが「厄祓い」、寺院で行うのが「厄除け」と呼び分けることが多い。ただし現代では混用されており、神社でも「厄除け」の語を使う場合がある。

Q3. 数え年がわかりません。どう計算すればよいですか?

今年の誕生日を迎える前であれば満年齢+2歳、迎えた後であれば満年齢+1歳が数え年となる。元日が基準のため、全員が1月1日に一斉に歳を重ねる。

Q4. 厄年でないのに不運が続きます。厄祓いを受けてもよいですか?

厄祓いは厄年に限った祈祷ではない。心身の不調や生活の転機を感じたとき、いつでも受けることができる。神社本庁も時期について「決まりがあるわけではない」としている。

参考文献

  • 神社本庁「厄祓い(男性・女性の厄年、本厄等)」(jinjahoncho.or.jp
  • 寺島良安『和漢三才図会』(1712年頃成立)──厄年の9年周期説の典拠
  • 國學院大學学術情報リポジトリ「厄年習俗の形成」(k-rain.repo.nii.ac.jp